親の介護は、ある日突然始まることがあります。入院や退院後の生活、認知症の兆候、通院の付き添いなどをきっかけに、これまで通り働き続けられるのか不安になる人も少なくありません。
仕事を辞めれば介護に時間を使いやすくなる一方で、収入の減少やキャリアへの影響、自分の家庭への負担も大きくなります。親を支えたい気持ちがあっても、すぐに退職を決めるのは慎重に考える必要があります。
この記事では、親の介護が始まったときに仕事を辞める前に確認したいこと、使える制度や相談先、介護を一人で抱え込まないための考え方を解説します。

介護と仕事のバランスに悩んでいる方は、ぜひ最後までお読みください。
親の介護で仕事を辞める前にまず確認すること
親の介護が始まっても、すぐに退職を決める必要はありません。まずはどの程度の支援が必要なのか、自分や家族がどこまで対応できるのかを整理することが大切です。状況を把握しないまま仕事を辞めると、後から介護サービスや職場の制度で対応できたことに気づく場合もあります。まずは、介護と仕事を両立するための前提を確認していきましょう。
親にどの程度の介助や見守りが必要か整理する
最初に確認したいのは、親にどの程度の介助や見守りが必要なのかです。介護といっても、必要な支援の内容は人によって大きく異なります。すぐに同居や退職を考える前に、親の状態を具体的に把握することが大切です。
たとえば、食事や着替え、入浴、トイレなどの日常生活に介助が必要なのか、通院の付き添いだけでよいのか、薬の管理や買い物のサポートが必要なのかによって、対応方法は変わります。認知症の兆候がある場合は、火の消し忘れや金銭管理、外出時の迷いなど、見守りの必要性も考える必要があります。
親本人が「大丈夫」と言っていても、実際には家の中で困っていることがあるかもしれません。冷蔵庫の中身、薬の飲み忘れ、部屋の片付け、転倒しやすい場所など、生活の様子を確認すると、必要な支援を把握できます。

介護の負担を正しく把握できれば、仕事を休む必要がある場面と、介護サービスで対応できる場面を分けやすくなります。まずは感覚だけで判断せず、親の生活で困っていることを書き出してみましょう。
通院・手続き・日常生活で誰が何を担うか確認する
次に、介護に関わる役割を家族で確認しましょう。親の介護は、食事や身体介助だけでなく、通院の付き添い、役所の手続き、介護サービスの調整、買い物、掃除、見守りなど多くの対応が発生するためです。
平日の通院には、仕事の調整が必要になることがあります。介護保険の申請や要介護認定の立ち会い、ケアマネジャーとの面談なども、誰かが時間を作って対応しなければなりません。遠方に住んでいる場合は、実際に動ける家族と、電話や費用面で支える家族に役割を分ける必要もあります。
ここで曖昧にしたまま進めると、特定の人だけに負担が集中しやすくなります。「自分が長男だから」「近くに住んでいるから」と一人で抱え込むのではなく、兄弟姉妹や親族と、できること・できないことを共有しておきましょう。

役割分担を考えるときは、通院は近くに住む人、書類管理は得意な人、費用の確認は別の家族など、それぞれの状況に合わせて分けることが大切です。
自分の仕事で調整できる時間を把握する
介護離職を避けるには、自分の仕事でどの程度時間を調整できるかを確認しておく必要があります。仕事の内容や勤務形態によって、休みやすい時間帯、在宅勤務の可否、勤務時間の変更しやすさが異なるためです。
たとえば、通院の付き添いが月に数回必要な場合、有給休暇や半休、時間単位の休暇で対応できることがあります。介護サービスの調整や退院直後の生活準備が必要な場合は、一定期間まとまって休む制度を検討することもあるでしょう。職場によっては、時短勤務、時差出勤、在宅勤務、残業免除などを利用できる場合もあります。
自分の仕事で調整できる範囲を知らないまま「両立は無理」と判断すると、退職しか選択肢がないように感じてしまいます。まずは就業規則や社内制度を確認し、どのような働き方の変更ができるのかを把握しましょう。

介護は長期化することもあります。短期間だけ無理をして乗り切るのではなく、仕事を続けながら対応できる形を探すことが大切です。
退職する前に会社と地域の相談先へ連絡する
仕事を辞めるか迷ったときは、退職を決める前に会社と地域の相談先へ連絡しましょう。介護は家族だけで抱えるものではなく、職場の制度や地域の支援を組み合わせて対応できる場合があるためです。
会社では、上司や人事に介護の状況を伝えることで、介護休業や介護休暇、勤務時間の調整などを相談できます。制度を使うには事前の申請が必要な場合もあるため、早めに確認しておくと選択肢を残しやすくなります。
一方、親の介護そのものについては、親が住んでいる地域の地域包括支援センターに相談できます。介護保険の申請、介護サービスの利用、見守りの方法、家族の負担を減らす方法などを相談できる窓口です。

退職は生活や収入、将来のキャリアに大きく影響します。仕事を辞める前に、会社で使える制度と地域で受けられる支援を確認し、介護を続ける体制を作れるか考えてみましょう。
介護離職を避けるために使える制度と相談先
仕事を続けながら介護体制を整えるには、会社の制度と地域の介護支援を組み合わせて考えることが大切です。介護のために休む制度だけでなく、働き方を調整する制度や、介護サービスにつなげる相談窓口もあります。退職を決める前に、どこへ相談し、どの制度を使えるのかを確認しておきましょう。
地域包括支援センター|親の介護を最初に相談できる窓口
親の介護について最初に相談したいのが、地域包括支援センターです。地域包括支援センターは、高齢者の暮らしや介護に関する相談を受ける地域の窓口で、親が住んでいる地域のセンターに相談できます。
親の介護が始まると、何をすればよいのか、介護保険の申請が必要なのか、どのサービスを使えるのかがわからないことがあります。地域包括支援センターでは、要介護認定の相談、介護サービスの利用、見守り、生活上の困りごとなどを相談できます。
たとえば、親が退院後に一人で生活できるか不安な場合や、認知症の兆候があり見守りが必要な場合、まず地域包括支援センターに連絡すると、必要な手続きや支援先を案内してもらえます。遠方に住んでいて頻繁に実家へ行けない場合も、親の地域で利用できる支援を知るきっかけになります。

介護離職を避けるには、家族だけで介護を抱え込まないことが大切です。仕事を辞めるか考える前に、まず親の住む地域の相談窓口につながり、使える介護サービスを確認しましょう。
会社の上司・人事|介護休業や働き方の調整を相談する
介護と仕事を両立するには、会社の上司や人事にも早めに相談しましょう。介護の事情を職場に伝えないまま休みを重ねると、仕事の調整が難しくなり、自分も周囲も負担を感じやすくなるためです。
会社には、介護休業や介護休暇、短時間勤務、残業免除など、仕事と介護を両立するための制度があります。これらの制度を使うには、申請方法や対象条件、必要な書類を確認する必要があります。制度の内容は法律で定められている部分もありますが、具体的な手続きは会社の就業規則によって異なる場合があります。
たとえば、親の通院付き添いが月に数回必要な場合は、介護休暇や時間単位の休暇で対応できるかもしれません。退院直後に介護体制を整える必要がある場合は、介護休業を使って一定期間休む選択肢もあります。
相談するときは、「親の介護が必要になった」とだけ伝えるのではなく、どのくらいの頻度で休みが必要になりそうか、在宅勤務や時短勤務が可能かなど、具体的に話せると調整しやすくなります。

会社に相談することは、迷惑をかけるためではなく、仕事を続けるための準備と考えましょう。
介護休業|介護体制を整えるために使う
介護休業は、要介護状態にある家族を介護するために、まとまった期間休める制度です。対象家族1人につき、通算93日まで、3回に分けて取得できます。厚生労働省は、介護休業について「対象家族1人につき3回、通算93日まで」と案内しています。(厚生労働省)
ただし、介護休業は「自分が介護をすべて担うための休み」と考えるより、介護体制を整えるための期間として使うのが現実的です。介護は長期化することが多く、93日間だけで終わるとは限らないためです。
たとえば、介護休業中に要介護認定の申請を進める、ケアマネジャーと相談する、デイサービスや訪問介護の利用を決める、兄弟姉妹と役割分担を話し合うといった準備ができます。退院後の生活環境を整える期間として使うことも考えられます。

介護休業を使う場合は、休業開始予定日の2週間前までに会社へ申し出る必要があります。急に休みが必要になる前に、会社の申請方法や必要書類を確認しておくと安心です。
介護休暇|通院付き添いや手続きで休むときに使う
介護休暇は、通院の付き添いや介護サービスの手続きなど、短期間の対応が必要なときに使いやすい制度です。介護休業がまとまった休みであるのに対し、介護休暇は日常的に発生する介護の用事へ対応するための休暇と考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば、親の病院への付き添い、ケアマネジャーとの面談、介護保険の申請、施設見学、役所での手続きなどで、平日に時間を取らなければならないことがあります。そのたびに有給休暇だけで対応していると、すぐに休暇が足りなくなる場合があります。
介護休暇は、対象家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで取得でき、時間単位での取得もできます。短時間の通院付き添いや手続きに使いやすい制度です。(介護21)

介護は、急な呼び出しや平日の対応が重なりやすいものです。仕事を続けながら親を支えるためにも、介護休暇をどのような場面で使えるのか、会社の制度とあわせて確認しておきましょう。
短時間勤務や残業免除|仕事を続けながら介護に対応する
介護離職を避けるには、休む制度だけでなく、働き方を調整する制度も確認しましょう。介護は一時的な対応だけでなく、通院や見守り、家族との連絡などが継続的に発生することがあるためです。
たとえば、親の夕方の見守りが必要な場合は、終業時間を早める短時間勤務が役立つかもしれません。定時後に介護サービスの連絡や実家への移動が必要な場合は、残業を減らすことが負担軽減につながります。
育児・介護休業法では、要介護状態にある対象家族を介護する労働者が請求した場合、会社は所定外労働、いわゆる残業を免除しなければならないとされています。厚生労働省も、介護保険制度の介護サービスや両立支援制度を組み合わせて、仕事と介護を両立するよう案内しています。(厚生労働省)

勤務時間を調整できれば、仕事を完全に辞めなくても介護に対応できる可能性があります。短時間勤務、時差出勤、在宅勤務、残業免除など、自分の職場で使える制度を早めに確認しておきましょう。
介護休業給付金|休業中の収入減を補う
介護休業を取得する場合は、介護休業給付金についても確認しておきましょう。介護休業中は会社から給与が出ない、または減る場合があるため、収入面の不安を減らす制度を知っておくことが大切です。
介護休業給付金は、一定の条件を満たす雇用保険の被保険者が介護休業を取得した場合に受け取れる給付です。厚生労働省によると、介護休業給付の額は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」で計算されます。(厚生労働省)
たとえば、介護体制を整えるために1か月休む場合、給付金によって収入減を一部補える可能性があります。ただし、実際の支給額は休業前の賃金や休業中の賃金支払いの有無などによって変わります。申請には勤務先やハローワークが関わるため、会社の人事担当に確認しておくとよいでしょう。

介護休業給付金があるからといって、収入が完全に元通りになるわけではありません。それでも、退職して収入が途絶える前に、休業と給付金を組み合わせて介護体制を整える選択肢があることは知っておきたいポイントです。
介護を一人で抱え込まない体制を作るには
介護離職を避けるには、家族だけで頑張ろうとしすぎないことが大切です。介護サービス、職場の制度、兄弟姉妹や親族の協力を組み合わせれば、仕事や生活を守りながら親を支える体制を作りやすくなります。
介護休業中に介護サービスの利用体制を整える
介護休業は、自分が介護をすべて引き受けるための期間ではなく、介護を続けるための体制を整える期間として使うことが重要です。
たとえば、休業中に地域包括支援センターへ相談し、要介護認定の申請やケアマネジャーとの面談を進めます。そのうえで、訪問介護、デイサービス、ショートステイ、福祉用具のレンタルなど、親の状態に合うサービスを検討します。
特に仕事を続ける場合は、平日の日中や急な体調変化にどう対応するかを考えておく必要があります。日中はデイサービスを利用する、服薬確認は訪問介護に依頼する、月に数回はショートステイを利用するなど、家族が常に付き添わなくても生活が回る形を作っておくと安心です。

介護休業が終わってから慌ててサービスを探すと、希望する曜日や時間帯で利用できないこともあります。休業中に複数の選択肢を確認し、仕事復帰後の生活を想定して体制を整えておくことが、介護離職を防ぐ第一歩になります。
兄弟姉妹や親族と役割を分担する
介護は、近くに住んでいる人や気づいた人に負担が偏りやすいものです。しかし、一人だけが通院付き添い、買い物、手続き、金銭管理、緊急時対応まで抱えると、仕事や家庭生活に大きな影響が出ます。
そのため、早い段階で兄弟姉妹や親族と話し合い、役割を分担しておくことが大切です。たとえば、近くに住む人は日常の見守り、遠方に住む人は費用の一部負担や書類手続き、定期的な電話確認を担当するなど、できることを現実的に分けます。
このとき、「誰が一番大変か」を責め合うのではなく、「親の生活をどう支えるか」「それぞれが無理なくできることは何か」という視点で話すことが重要です。介護サービスの利用料、交通費、住宅改修費などのお金の話も、後回しにすると不満につながりやすいため、早めに共有しておきましょう。

また、話し合った内容は口約束だけにせず、メモやチャットで残しておくと認識のずれを防げます。介護の状況は変わるため、一度決めて終わりではなく、定期的に見直すことも必要です。
遠方介護は地域の支援を前提に考える
親と離れて暮らしている場合、子どもが毎回現地へ行って対応する前提では、仕事との両立が難しくなります。遠方介護では、家族が直接動くことよりも、親の暮らす地域で支援を受けられる体制を作ることが現実的です。
まずは、親の住む地域の地域包括支援センターに相談し、利用できる介護保険サービスや見守り支援を確認します。ケアマネジャー、訪問介護、デイサービス、配食サービス、見守りサービス、近隣の親族や知人など、複数の支援先を組み合わせることで、離れていても状況を把握しやすくなります。
また、通院付き添いや買い物、掃除などをすべて家族が担うのではなく、外部サービスに任せられる部分を整理することも大切です。急な入院や転倒などに備えて、緊急連絡先、保険証、薬の情報、かかりつけ医、介護事業所の連絡先を共有しておくと、いざというときの対応がスムーズになります。

遠方介護では、「帰省回数を増やして頑張る」だけでは限界があります。地域の支援を前提にして、家族は判断や調整を担う形にすると、仕事を続けながら親を支えやすくなります。
自分の収入・キャリア・家庭への影響も確認する
親の介護が始まると、どうしても親の生活を優先して考えがちです。しかし、介護を続ける側の収入、キャリア、健康、家庭への影響も同じように確認する必要があります。
たとえば、勤務時間を短くした場合の収入減、昇進や異動への影響、配偶者や子どもとの生活リズム、住宅ローンや教育費への影響などは、感情だけで判断すると後から負担が大きくなることがあります。介護費用だけでなく、自分自身の生活費や将来資金も含めて見直しておくことが大切です。
また、介護の負担が続くと、睡眠不足やストレスから体調を崩すこともあります。介護する人が倒れてしまうと、親の生活も支えにくくなります。そのため、仕事を続けるかどうかだけでなく、休息を取れる時間、相談できる相手、利用できる制度をあらかじめ確認しておきましょう。

「親のために自分が我慢する」という考え方だけでは、介護は長続きしません。親を支えるには、自分の生活を守ることも必要です。
退職は最後の選択肢として考える
介護が大変になると、「仕事を辞めた方が楽になるのでは」と考えることがあります。しかし、退職すると収入が減るだけでなく、再就職が難しくなったり、将来の年金額に影響したりする可能性があります。介護が終わった後の生活にも関わるため、退職は慎重に考える必要があります。
まずは、職場の介護休業、介護休暇、短時間勤務、時差出勤、在宅勤務などの制度を確認しましょう。上司や人事に相談し、どの程度働き方を調整できるかを把握することが大切です。あわせて、介護保険サービスや自治体の支援、親族の協力を組み合わせれば、退職せずに対応できる場合もあります。
退職を考える前に、「何が一番負担になっているのか」を整理すると、別の解決策が見つかることがあります。通院付き添いが負担なら介護タクシーや付き添いサービス、日中の見守りが不安ならデイサービスや訪問介護、夜間対応がつらいならショートステイの利用を検討できます。

介護離職は、一度選ぶと元の働き方に戻るのが簡単ではありません。だからこそ、退職は最初の解決策ではなく、制度やサービスを使ってもどうしても難しい場合の最後の選択肢として考えることが大切です。
まとめ|仕事を辞める前に相談先へつながろう
親の介護が必要になると、「自分が仕事を辞めて支えるしかない」と感じることがあります。しかし、退職を決める前に、まずは親の住む地域包括支援センターに連絡すること、そして会社の就業規則を確認することから始めましょう。
地域包括支援センターでは、親の状態に応じた介護サービスや地域の支援について相談できます。要介護認定の申請、ケアマネジャーとの連携、見守りや通所サービスの利用など、家族だけで抱え込まないための選択肢を整理しやすくなります。
一方で、会社の就業規則を確認すれば、介護休業や介護休暇、短時間勤務、時差出勤など、仕事を続けるために使える制度が見つかる場合があります。上司や人事に相談する前に制度の有無を把握しておくと、働き方の調整について具体的に話し合いやすくなります。
介護は、いつまで続くか見通しにくいものです。だからこそ、最初から一人で背負うのではなく、介護サービス、職場の制度、親族の協力を組み合わせて、続けられる体制を作ることが大切です。

仕事を辞める判断は、収入やキャリア、家庭の生活にも大きく影響します。焦って退職を選ぶ前に、まず相談先につながり、使える支援を確認しましょう。親を支えるためにも、自分の生活を守る視点を持つことが必要です。